首下がり症

首下がり症とは

首下がり症は、首から背中をつなげる筋肉の筋力低下によって発症します。
頚椎を支える後ろの筋肉と靭帯の力が弱くなるため、後の骨と骨との間が広がってしまっています。

顎が胸についてしまう “chin on chest” という状態になってしまうため、前を見て歩くことがつらくなります

一時頭を持ち上げることはできるのですがその状態を維持できない「姿勢維持困難症」で、近年、高齢化に伴い増加しております。

急に起こることもありますが、肩が凝っているような違和感から始まり、症状が軽いため最初はなかなか気づけないこともあります。

他人から指摘されてはじめて気づくこともありますが、「首下がり」という病名はあまり知られていないので早期の治療開始が遅れることが多いです。

だんだんと頭部が重く感じるようになるため前にかがんだような状態になり、頭を無理に上げようとすると首や背中に重い感じの痛みを感じますが、横になると消失します。このような状態は、起き上がった状態での日常生活の質を著しく低下させます。前を向いて歩きにくくなったり、洗顔動作、歯磨き、ご飯を飲み込む(嚥下)などの生活基本動作や呼吸するのも苦しく感じる人もいます。

立った姿勢は、首を持ち上げるために腰を使って体を後ろにさげようとするためお腹をつきだした状態となってきます。さらに歩くと頭をあげているのが困難となります。

原因のチェックが大切で、加齢による頚椎症や、加齢以外にも神経や筋肉の病気が原因で起こる場合があります。 主な疾病は、パーキンソン病・ジストニア(筋肉が緊張し続ける)・ミオパチー(筋肉の力が弱くなる病気の総称)などがあります。向精神薬の服用が影響することもあるので注意が必要です。

検査は、採血、骨密度、筋量を計測し、MRIや筋生検(筋肉の組織)、エコーを使用して筋肉の収縮状態を分析することで、診断します。

首(頭)が下がったままの状態を放置すると、筋肉が断裂して繊維組織に置き換わってしまい治癒が困難となってきます。そのため早期の診断と早期治療が大切です。

まずは自己診断をしてみましょう

各項目3点以上で要注意です。

項目1-首がさがっているか□ 立っていて、3分以上前を見続けられない
□ 歩いていると、首が重くなってくる
□ うがいができない
□ よく、首に手をあてている
□ 天井を見ることが困難となってきた
□ うつぶせとなると、前が見れない
□ 人から、姿勢が悪くなったと言われるようになった
項目2-首下がりからくる体調不良□ だるい
□ からだがむくむ
□ からだが傾く
□ 首のつけねがはってくる
□ 首から背中がこっている
項目3-首下がりからくる生活の不自由□ 歯磨きができない
□ 飲み込みづらい
□ コップで水が飲みづらい
□ 歩くとふらつく
□ 手を上にあげるのが大変
□ 前を見ていると疲れて、つい下をむいてしまう
□ 信号を見続けて渡るのが疲れる
□ 寝返りが不自由
項目4-神経内科の病気から首下がりがくる可能性□ 手が震える
□ 歩くのがこきざみになってきた
□ 歩くときに足があがらない
□ 腰がまがってきた
□ 物忘れが多くなる
□ 声がだしづらい

肩こりが首下がりのはじめの症状であることがあります。

最初は、単なる肩こりと思っていたら、少しずつ姿勢が悪くなって、人から首が下がっていると指摘されて気づく人も多いです。

生活習慣が乱れると、生活の自立が困難となり悪循環が生まれます。

肩こり→首下がり→体の不調→生活困難となります。

これらの対策は、原因について診断し、薬やマッサージでなく、早めに診断してリハビリ運動をすることが大切です。

しかし、病気からくる首下がりもあります。項目4が3つ以上あたった場合は、脳や内科の病気からくることもあります。神経内科または整形外科のお医者さんに相談しましょう。

首下がり→体に病気があるかも(項目4)→医師に相談

首下がりのリハビリ

首下がりの原因は、長時間の前かがみの動作によって、首の付け根から背中の上にかけて存在している筋肉の炎症が発生して生じます。

首を支えている筋肉の多くは、肩と肩甲骨から発生しているので、首を動かすよりも、肩甲骨と背中を動かすリハビリが大切です。

また、背中や腰から曲がっている人は骨盤から姿勢を整え、体幹が安定しないと首の安定を得ることは不可能です。

首を支えた状態で維持する筋肉と首を持ち上げる筋肉は異なり、瞬間的に頭を持ち上げることはできるのですが、それを維持することが困難となります。特に歩く時、夕方にきつくなってきます。そのため、どの筋肉を鍛えればよいかを知るため専門家によるリハビリ指導をお勧めします


例えば、多裂筋、頚半棘筋などは、深部にあって頚部の姿勢維持に作用し、頭板状筋、肩甲挙筋などは頚部を持ち上げる動作時に作用します。僧帽筋は頸椎、上腕骨、肩甲骨、脊椎の広い範囲に作用してそれらを引き寄せて肩や頚部の関節に力が入りやすい状態を維持させます。

当院では、遠方の患者様、通院困難な患者様のために、2週間の入院集中リハビリを行っております。シェアープログラム(the Short and Intensive Rehabilitation (SHAiR) Program)といって、理学療法士によるリハビリと、ベッドサイドでの自己訓練と休息を繰り返し、週1回脊椎専門医によって指導を受けます。

リハビリで改善後は、定期的な外来フォローを予定します。

なるべく、発症早期に診断してリハビリをすることが改善につながります。陳旧化すると首を持ち上げる筋肉が壊死をしてしまい、リハビリが無効となってしまいます。

ご希望の方は、電話予約をしてから外来受診していただき、

外来で、入院前に必用な検査を行い、首下がり症の状態を診断し、改善の見込みがある場合は、シェアープログラムの適応を相談します。

リハビリ内容、首下がり症全体について、下記文献に書かれております。

参考文献

1)遠藤健司, 佐野裕基, 山内智康, 石山昌弘, 山中邦裕, 上野竜一, … & 山本謙吾. (2023). 特集 首下がり症候群の病態と治療 首下がり症候群に対する運動療法. 脊椎脊髄ジャーナル, 36(7), 515-520.
2)Isogai, N., Ishii, K., Igawa, T., Ideura, K., Sasao, Y., & Funao, H. (2023). Radiographic Outcomes of the Short and Intensive Rehabilitation (SHAiR) Program in Patients with Dropped Head Syndrome. JBJS Open Access, 8(3), e23.
3)急増する首下がり症、どう防ぐ、どう治す。 遠藤健司 ワニプラス社

よくある質問

Q
首下がりは、治るのですか?
A

原因と発症からの時期によって異なります。パーキンソン病や、向精神薬の内服などが影響することがあるので、原因となる疾患がある場合は疾患の治療の進み具合に関係してきます。はっきりとした原因が無く、加齢でなっている場合では、真下を向いてしまう時間が長いと筋肉が伸びて組織が置き換わってしまうので回復が悪くなります。早期に原因、MRIやエコーで首を支えている筋肉の状態を診断して、装具とリハビリなどをすることが大切です。

Q
首下がりの原因はなんですか
A

はっきりとした原因は不明ですが、パーキンソン病など脳の病気、重症筋無力症など筋肉の病気、筋委縮性側索硬化症などの神経の病気、首への放射線治療の影響、抗がん剤の影響などさまざまな原因が報告されています。INEM(isolated neck extensor myopathy)と言われるはっきりとした原疾患の無い、加齢現象による頚部を起こす筋肉(伸筋群)の筋委縮で発生することも多いと言われています。原因によって治療が異なるのでまず、しっかりとした診断をすることが大切です。

Q
首下がりは、なぜおこりますか
A

首を支えている筋肉のうち、一番深いところにある姿勢維持筋(ローカル筋と呼ばれます)である頚半棘筋、多裂筋の筋委縮がおこり、それを頭頚部の動作筋(グローバル筋)である、頭板状筋、肩甲挙筋が代償して首をささえている状態となります。そして浅い部分の僧帽筋など頭、頚椎、肩甲骨を包括する筋肉全体にはった感じがひろがってゆきます。起き上がてっている時はchin on chest (顎が胸についた状態)となり、横になると顎と胸の距離が広がり、首の動き自体は比較的保たれています。首を支えている骨や関節、頚髄などの神経に障害が少ないのが頚椎症である頚椎後弯症は、首の動き自体が悪くなり、経過、予後、治療が異なります。しかし、首下がりが進行すると、頚椎症に移行してゆくことがあります。

Q
日常生活で何に気をつけたらよいですか。
A

首下がりの状態を長く続けないことが大切です。首の後ろの筋肉が伸びきって、腱も弛緩してしまうからです。下を向く作業を続けるときは、ポリネックなどをして、首下がりにならないように気を付けましょう。

Q
首下がりが悪くなるとどうなりますか。
A

首下がりの最初の症状は、首に違和感を感じてから1週間から3か月の間で発症し、前を向いて歩けない、上を向きずらい、台所仕事で前かがみをしていると首が重くなる、うがいが不便などで、首の異常を自覚します。進行すると、自分で買い物に行けなくなるなど日常生活の不便が多くなり、上を向いて眠れなくなる、布団で眠ることができずリクライニングが必用となります。さらに進行して歩くときにいっさい前を見ることができなくなると、歩くのがこきざみになり不安定となります。外出することができなくなり、身の回りのことが徐々に自分でできなくなってきます。外出や衣類の片づけなど自分のことが自分で気なくなる前に、なるべく早期に治療を開始することが大切です。

Q
首下がりのMRIはどんな特徴がありますか
A

神経などの圧迫が少ないので、異常がないと診断されることが多いですが、よく観察すると、Katzが述べているように頚部伸筋群の変性(特に多裂筋や頚半棘筋の浮腫、萎縮)を認めたり、私どもの観察では、項靭帯の肥厚、弛緩、項靭帯のC7棘突起からの剥離などを認めます。ただし、これらの変化は、通常の加齢性変化でも観察されれることがある所見が多く、どこからが病的であるかを画像のみで診断することは現在のところ困難なので、経過をおって、画像変化を見ることで、異常所見を発見することができます。

治療の効果は、どのくらいサポートなしで前を向いて歩けるかで判定され、数歩で困難、数分で困難、10分程度は可能、30分以上可能、さらに改善すると首の愁訴を感じずに歩くことができるようになります。

重症度の分類を下記に示します(文献 Endo K., Sawaji Y, Aihara T., Suzuki H., Matsuoka Y, Nishimura H, Takamatsu T, Konish T. and Yamamoto K (2021).:Eight cases of sudden onset dropped head syndrome ⎼ Illustrative cases, JNS lessons. より和文として引用)。

Grade程度状態
0正常30分以上連続して前を向いて歩くことが普通にできる
1軽症30分以上連続して前を向いて歩くことができるが、首が重くなる
2中等度サポートなしで30分以上連続して前を向いて歩くことができない
3生活に支障あり数分以上サポートなしで、連続して前を向いて歩くことができない
4生活に大きな支障あり数分以上サポートなしで、連続して前を向いて立つことができない
+N医師に必ず相談の必要あり数分以上サポートなしで、連続して前を向いて立つことができない

Grade 2か3程度ですと経過が良いので、早めに相談してください。

治療は、お薬、装具、バンドなどありますが、運動、リハビリが大切です(下記図)。
首を支える力を評価する首下がりテストを考案しました(天井を見えるか、腹ばいで前を見れるか、四つん這いで前を見れるか)。

外来で初めて首下がりを訴えていらっしゃった方で可能であった割合です。リハビリでこれらの動作が少しずつ可能になってきます。

早期診断と治療が大切です

それでも、生活の質が保てない場合は、手術を考慮します。
【首下がり体操 簡単編(10分)】
最初は、座って体操
両手を腰にあてて、(腕の重みがなくなる)、首を前後左右に動かす
バンザイ運動をする(手を上げ下げする)
前ならえをして、首を後屈させる。
次に横になって体操
上をむいて、手足の伸びをする。
その後、寝返りを左右2回ずつ行う。
仰向けで、肘で床を押しならが背中を起こす、あごの上げ下げをする。
胸にタオルをいれてうつ伏せとなる。
うつ伏せで、肘をつき、片手で顎あげて前をみれるようにして、3秒から5秒維持する。

まずはご相談ください

脊椎、脊髄疾患について困っていること、不安に思っていることは遠慮なくご相談ください。セカンドオピニオンだけでも結構です。患者さんにとって一番良い治療を考えていきたいと思っています。

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